最近、暑くて夜中に目が覚めてしまう。
目が覚めたのは11時。

今日は友達と遊んで疲れたから、
ぐっすり眠れると思ったんだけどなあ。
なんてぼーっと考えてると、急にアイスが食べたくなった。
けれど今日の夜、最後の一本をお兄ちゃんが食べてた気がする…。
しょうがない、コンビニへ行こう。




こんな夜中に会う人はいないだろう、って軽い考えで
あたしはタンクトップに短パンというラフな格好で
コンビニへ向かった。




「(ラッキー!誰もいない!)」




流石に夜中だから、客はあたし以外誰もいなかった。
おまけに店員はおばちゃんだし!
あたしは何にしようかなあなんて思いながらアイスコーナーでアイスを選ぶ。




「いらっしゃいませ〜」




これにしよう!と思ってチョコレートのアイスを手に持ったとき、
おばちゃんがそう言った。
誰か来たのかなあなんて思いながら
どうせおじさんとかそこら辺でしょ!なんて軽い気持ちで
レジへ向かうと、今来た客が目に入る。




「ええ!?」




そこには見たことのある銀髪。
そう、仁王だった。
(いつぶりだろう?)
あたしが声を出したせいで、仁王はこっちをちらりと見た。
それからはあたしをじーっと見る。

(やばいって!あたし化粧もしてないしこんな格好だし…!)

思わず、冷や汗が出る。
だって、今まで仁王の前では可愛くなれるように頑張ってきたんだもん。
あ、けれど逆に化粧してないからあたしってわからないかも?

そのままアイスを持ってレジのおばちゃんに差し出す。
120円です。と言われて財布からお金を取り出し、おばちゃんに渡して
アイスを受け取る。そのときに「ありがとう」とお礼も忘れずに。

さっさとコンビニを出て、家に帰ろうと思って
小走りで入り口に立ってた仁王の横を通りすぎようとしたとき
ぐっと腕を掴まれた。「じゃろ」という声とともに。




「ひ、人違いじゃないですか」
「声がじゃ」
「……ち、違いますよ!」
「詐欺師を騙そうなんて100年早いぜよ?」




ックク、と独特な笑いであたしを見る仁王。
わかった!わかったから!あたしはだから!
そんなに見ないで!




「ちょっと待ちんしゃい」
「え?」
「すぐ買うてくる」
「え?は?何が?」




仁王は腕を離してコンビニの奥へと入っていった。
手にあたしと同じアイスを持って戻ってきた。
お金を払い終わって、仁王はあたしの元へまた戻ってくる。
そして行くぜよ、と一言。




「どこへ?」
んち」
「なんで?」
「女の子1人が危ないじゃろ。送ってってやるぜよ」




俺は優しい、紳士やき。
今度はあたしの手を自分の手と絡めてコンビニを出た。
さっきは車が何台か通っていたけれど、流石に1時とだけあって
今は一台も通ってない。




「紳士は柳生くんでしょ。ていうか、何この手!(ドキドキするからやめて)」
「ええじゃろ?嬉しい?」
「う、嬉しくないし!」




なんて言っておきながらなかなか手を離せないあたしは馬鹿だ。
アイスを食べてると、仁王もさっき買ったばかりのあたしと同じアイスを
口に含んだ。そしたら真ん中に眉を寄せて「甘い」と言った。




「あたし1人で帰れるよ?」
「だめじゃー」
「子供じゃないんだから」
「子供じゃろ」
「失礼な」




っていうか、さっきから思うんだけど!
あたしを見ないでほしい。すっぴんだし。
ああ、これなら薄いメイクでもしてくればよかった。




「あのさ、あたしの顔あんまり見ないでほしい」
「なんで?」
「ええと、ほらすっぴんだし」
「千尋はすっぴんのほうがええぜよ」




はあ?と思わずあたしから仁王を見た。
すっぴんの方がいい?なんてこと言うの!
あたしだって化粧したら少しは可愛くなるくらいわかってる。
すっぴんのあたしなんてぶさいくに決まってるじゃない。
それをすっぴんの方がいいって?
つまり、ぶさいくの方がいいってこと?




「違うぜよ。すっぴんの方が可愛えってことじゃき」
「可愛くない。お世辞はいいよ」
「すっぴんの方がってカンジやき」
「からかうのやめてー」




からかってないんやけどのう?という仁王はものすごくかっこいい。
あたしと違って、こんな夜中なのにラフな格好ではあるけれど
あたしみたいにタンクトップに短パンではないから。
一緒に手繋いで歩いているのが、恥ずかしい。
(誰も見てる人はいないんだけれど)




「もう、ここでいいよ!あと少しだし」
「だめじゃ。危ないぜよ」
「大丈夫だって!」
「そんな格好で女の子1人が歩いてるのは危険ぜよ。男をナメちゃいかん」
「こんなあたしに発情する男なんていないって」
「俺はするんやけどのう?」




そう言った瞬間、仁王はあたしの腰に手を回してきた。
クイッと顎を彼の人差し指で上げられる。
ポトッと持っていたアイスの棒が落ちる音が大きく聞こえた。




「に、仁王。からかうのはやめてって言ってるでしょ」
「からかってないぜよ?」
「自分が何て呼ばれてるかわかってるの?詐欺師でしょ」




トンッと仁王を押すと、仁王は離れた。
そしてあたしの顔を見てッククとまたあの独特な笑いをこぼした。
なによ、と意地を張って聞くと「顔真っ赤」と言われた。

そんな彼に「暑いだけだし!」と言ってまた歩き出す。
仁王はまたあたしの横に並んで、さり気なく手を繋いできた。
ああ、また心臓がドキドキうるさい。




「着いたぜよ」
「…ありがとう」
「夜中にコンビニ行くときは俺を呼びんしゃい」
「あたしは子供じゃないんだってば。何回言ったらわかるの」
「ックク。どうかのう」




仁王はふっと笑ってあたしの頭の上に手を置いてポンポンと撫でた。
ほら、子供扱いする。あたしはその手を払おうと思ったけど、
一瞬仁王が真剣な顔をしたからその手は行き場を失った。




「詐欺師でも、本気になるときもあるぜよ」
「え?」




瞬きをしたあとの仁王の顔はいつもの顔。
さっきの真剣な顔は気のせいだった?
今の言葉はどういう意味?




「明日、暇かの?」
「うん、暇だけど」
「朝10時に駅前な」
「ええ!?」




彼はそう言ってあたしに背を向けた。
そして歩き出す。
一体何なんだ、彼は。
あたしは家に入ろうと、ドアを開けた。
そしたら、「あ」という声が聞こえたのでまた振り返って少し
遠くにいる仁王を見た。




「寝ぐせ、可愛いぜよ」




ぴょんぴょんと仁王は自分の髪の毛を触る。
あたしは仁王を真似て、髪の毛を触ってみる。
そこは見事にはねていた。
(あああ!恥ずかしい!)
早く言ってよね!なんて怒鳴ると彼はまた笑って
「明日楽しみにしとるぜよ」とだけ言って角をまがった。

 


 





最近、仁王くんやばい。彼はどうしてこんなにかっこいいんだろうか(笑) 結構この話気に入ってます(10.08.22)